徳島県の山間部で、しばしば耳にするのは、古来より、奇怪な伝説が語り継がれていることだ。たとえば、「おぎゃなき伝説」というものがある。それは、山の中から赤ん坊の声がしたり、あらわれたりするという言い伝え。しかし、決して背負ってはいけないという。「おぎゃなき伝説」にかかわりがある妖怪が徳島県には存在する。それは、三好市山城町に古来より伝わる、児啼爺(こなきじじい)である。民俗学者の柳田国男著「妖怪談義」のなかでとりあげられ、水木しげるのマンガ「ゲゲゲの鬼太郎」にも登場したことから、一躍、その名が知られるようになった妖怪である。児啼爺は、姿は老人であるが、赤ん坊の泣き声をする。ただ、赤ん坊だと思って抱きかかえると、岩のように重くなって、抱きかかえた人を押しつぶすのだと恐れられてきた。

徳島県、妖怪

 平成13年(2001年)、徳島県 三好市山城町の車道沿いには、そんな児啼爺の像が立てられた。場所は、妖怪街道ともいわれる藤川谷に沿う道沿いである。沿道には、児啼爺だけではなく、車を走らせれば、さまざまな妖怪たちのモニュメントが次々とあらわれるようになっている。一方、国道32号線の沿道にある「道の駅大歩危」(徳島県)でも、地元の妖怪たちが紹介されるようになった。「道の駅大歩危」の一角に、「こなき爺の里・妖怪屋敷」がオープンしたのだ。館内には、河童、鬼、狸など、地元に伝わる妖怪が数十体。地元の人々がつくった妖怪人形も多数、展示されている。


 徳島県の山間部は、今でこそ、鉄道や道路が整備されて、人々はずいぶん行き来しやすくなった。しかし、かつては、交通が極めて困難な場所で命を落とす者も少なくなかったのだという。少しでも気を抜けば、崖から転落したり、川に流されてしまうような危険が、日常茶飯事であった。「児啼爺」はじめ、これらの妖怪伝説が生まれたのは、親たちが、子供たちに、自然の脅威から命を守る心構えとして、徳島県では代々、言い伝えてきたことがはじまりだとも考えられている。一見すると不気味に思える妖怪たち。しかし、どこか、身近で愛らしい存在に思えてならない。

徳島県の西部に位置する「にし阿波観光圏」は崖が多いことや冬は雪に閉ざされることなどその厳しい自然環境から、日本の原風景ともいえる昔ながらの風景が多数残されている。また、平家伝説や妖怪伝説など、地域ならではのさまざまな伝承も味わい深い。

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徳島県の西部にはJR土讃線が走り吉野川に沿って大歩危・小歩危など景勝地もかすめていく

にし阿波観光圏は稲作に適した平地が少なく、山斜面を利用してそばの栽培が盛んに行われてきた。祖谷そばは祖谷地方の名物。

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善徳のかずら橋は、自然のつるでできた橋。その脇にある琵琶の滝とともに平家伝説が語り継がれている

井上晴雄 絵画作品集〜心を癒す日本の旅風景〜