徳島県の西祖谷村に入り、バスは祖谷渓をおりてゆく。かずら橋バス停から、祖谷川を上流方向に数分歩くと、渓谷のなかに、一本の吊り橋が掛かっているのが見えてくる。それが善徳の「かずら橋」(徳島県)である。あまりに原始的なたたずまい。かずら橋は、標高600m以上の山に自生しているという野生のシロクチカズラが主な原材料だ。シロクチカズラは、熱を加えることで自在に曲がり加工しやすくなる性質を生かし、かずら橋においては、丸太や橋桁を編み上げるのにつかわれている。



 かずら橋(徳島県)は、幅1.5m、長さ45mの吊り橋。橋に足を一歩掛けると、ゆさりと揺れる。とっさにかずらのツルに捕まる。足元に並ぶ丸太を確認しながら、一歩一歩、バランスをとって進んでいく。なかほどまで行くと、丸太の間から祖谷川の川面が真下に見える。水面から橋までの高さは14m。足元が震える。



 
Kazura



かずら橋(徳島県)を渡り終え、ほっと一息つく。言い伝えによれば、かずら橋(徳島県)は、源氏の追手を防ぐために平国盛が考案したものだという。平安時代の末期、平家は力を失っていた。源氏の武者たちが追ってきたら、ただ逃げるしかなかった。いざというときがきたら、カズラのつるで編んだ橋ならば、切って逃げられるだろう。そう考え、かずら橋(徳島県)をつくったそうだ。渡り終えた吊り橋を改めて眺めていると、そんな平家の落人たちの哀愁が心に響いてくる。





 渡り終えた地点から祖谷川を上流に50mほど歩けば、平家ゆかりの滝「琵琶の滝」(徳島県)も登場する。滝の落差は約50m。源平の戦いに敗れた平家の落人は、この滝のそばで琵琶を奏でながら、かつての優美な生活を偲んだと伝えられている。



徳島県の西部に位置する「にし阿波観光圏」は崖が多いことや冬は雪に閉ざされることなどその厳しい自然環境から、日本の原風景ともいえる昔ながらの風景が多数残されている。また、平家伝説や妖怪伝説など、地域ならではのさまざまな伝承も味わい深い。

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徳島県の西部にはJR土讃線が走り吉野川に沿って大歩危・小歩危など景勝地もかすめていく

にし阿波観光圏は稲作に適した平地が少なく、山斜面を利用してそばの栽培が盛んに行われてきた。祖谷そばは祖谷地方の名物。

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善徳のかずら橋は、自然のつるでできた橋。その脇にある琵琶の滝とともに平家伝説が語り継がれている

井上晴雄 絵画作品集〜心を癒す日本の旅風景〜